事業再構築ビジネスプラン
事業取組事例紹介事業取組事例紹介

ポストコロナ時代の宿泊施設運営  ~寝台特急「北斗星」ホテル~

北斗市
合同会社 靑(あお)

北斗市,北斗市商工会
合同会社 靑(あお)

■地域の取り組み

北斗市では新幹線開通による新函館北斗駅開業を視野に、商工会青年部が中心となった「北斗の星に願いをプロジェクト推進委員会」を結成、多くの人に北斗市を知ってもらい、訪れるきっかけをつくるため様々な事業を実施した。

北斗市を広く知ってもらうため推進委員会が手始めに実施したのが、北斗市公式キャラクター「ずーしーほっきー」を主人公とした北斗市PR動画の制作、北斗市商工会青年部YouTubeチャンネルにて計8話配信した。

次に、「北斗」繋がりで全国的にも知名度・人気共に抜群な漫画「北斗の拳」とのコラボ事業を実施、新駅にケンシロウの銅像を設置、新幹線開業時には武論尊・原哲夫先生を迎え、銅像除幕式を行い北斗市の知名度アップに繋げた。

そして、最後に実施したのが今回事例として取り上げる「寝台特急北斗星」の復活だった。

北斗市に新幹線駅が出来るが、目ぼしい観光資源が乏しく、函館や札幌までの通過駅になってしまう懸念があるため新たな観光スポットを創出するべく、北斗市内を走行していた「北斗星」を北斗市に呼び戻す資金を集めるため商工会青年部が中心となり平成28年3月、クラウドファンディングを実施した。

4月までに予算の目処が立たなければ「北斗星」は解体されてしまう厳しい状況のなか、30日間という短い期間設定になったが、全国でも数両しかない残っていない「北斗星」を愛する多くの支援者から支持を受け、わずか20日間で目標達成となり1,000万円の支援を受けることができた。
そこで、ネクストゴールとして残り10日間で1,600万円に目標を変更、2両目のラウンジ車両取得に向けて支援を求めたところ、最終的に30日間で車両移設後の保守・管理費を含む1,732万の寄付を取得することができた。

北斗星を取得するためのクラウドファンディングは過去に何度も鉄道愛好家により実施されていたがいずれも不成立となっており、今回の成功要因は商工会青年部を中心とした推進委員会の北斗市と北斗星に対する強い思いが支援者に通じた結果となった。

意外に思われるかもしれないが、「北斗星」取得にかかる主な費用は車両の購入費ではなく、車両の運搬費だった。廃車となった車両は鉄路を走行することができず、当時保管されていた札幌市のJR北海道苗穂工場から北斗市まで、交通量が少ない深夜から早朝にトレーラー2台で慎重にけん引し、300㎞の距離を輸送することとなった。 非常に特殊な輸送を請け負える業者は当時全国に2社しかなく、結局大阪の業者に約1,000万円の予算をかけて委託し、無事に「北斗星」は北斗市に到着した。

「北斗星」の展示場所は、市内でも特に人口減少の厳しい茂辺地地区の活性化への起爆剤とするため、いさりび鉄道茂辺地駅近くの小学校跡地を「北斗星広場」と名付け平成28年に設置し、一般公開することになった。コロナ禍前は年間10,000人の鉄道ファンが訪れ、観光のシンボルの一つとして地域の賑わいの創出に繋げることができた。

北斗市PR動画
「北斗の拳」とのコラボ
クラウドファンディング

■商工会青年部としての取り組み

商工会青年部独自でも新幹線需要を見込み、地域振興パイロット事業に着手、平成28年から4年連続「地域産品新商品開発」を実施、特産品の北寄を使った商品の開発を行った。

なかでも「北寄だし醤油」と「北寄だしパック」は年間700本販売する人気商品となっている。  
また、令和2年より「着地型観光商品開発」に転換、コロナ禍により停滞した消費ムードや、いつ回復するかわらない観光需要を期待した商品開発(モノづくり)ではなく、コロナで変容した価値観や消費行動に寄り添った「少人数・近距離・価値観重視」等を念頭に置いた体験事業を実施し、現在も調査・研究中。

地域産品新商品開発
着地型観光商品開発

■現在の事業状況と新型コロナウイルスにより受けた影響

「北斗星」を維持管理するためには5年に1度、サビ止めや塗装に500万円費用がかかるため、維持管理資金の確保を目的として令和元年に青年部有志3名が「合同会社靑」を設立し、管理運営を行うこととした。  

佐々木代表に3名で会社を設立した理由を聞いたところ「3名が意思決定や行動するのにちょうどいい数なのであえて少人数で起業した。」と回答があった。  
「合同会社靑」は北斗星広場にて商工会青年部時代にパイロット事業で商品開発した特産品の販売やカフェ運営を開始、しかし、コロナ禍による見学者の減少やカフェ休業で売上が減少、車両維持が困難な状況になっていた。

そんな中、見学に訪れた鉄道ファンの「北斗星に宿泊したい。」という声に着目、新たな収益の柱として車両維持の財源確保が可能となる「車両を活かした宿泊事業」への転換を図るため北斗星を活かした宿泊事業への転換を計画した。

■新たなビジネスモデルの内容

コロナ禍で売上が減少して困難な状況の中、見学施設として使用していた北斗星を宿泊施設に転換するため、事業再構築補助金を活用し「火災報知機等消防設備の整備(消防法)」、「入浴設備・洗面設備の改修とそれに伴う給排水設備(旅館業法)」、「電気・ガス工事」を実施する計画を策定。  

さらに、宿泊者数を増加させるため北斗星広場に正面から北斗星をゆっくりとみることができるよう窓を大きく加工した宿泊用トレーラーハウスも2台導入することにした。  佐々木代表は言う。「事業計画策定はやりたいことがはっきりしていたため苦労はなかったが、資金計画は宿泊業に関わったことがないため函館市内の宿泊施設に相談して何とか作ることができた。」 売上が少ない中で、このような大規模な事業が採択に至った成功要因は佐々木代表の事業に対する熱意であり、加えて金融機関を納得させる綿密な資金計画策定が不可欠だった。  「本業があるからこそできること、報酬なしでもなんとかここまできた。」商工会青年部を卒業した今でも当時の仲間と毎週飲みながら打ち合わせをする時間が一番楽しいと佐々木代表は語った。    

トレーラーハウスの運用を開始し、宿泊者数の増加を期待したが鉄道ファンはやはり北斗星に泊まりたいため思ったように稼働率は伸びていないが悲壮感はない。  

「基本自分たちは前向き、前向きでなければできない。今は一つずつ課題を解決していくだけ。」最近ではマスコミに紹介されるなど地域の賑わいが創出され、ようやく喜ばれるようになり、感謝の電話も増えてきている。  
さらに、最近では様々な団体から茂辺地区の活性化のため、テントサウナやキャンプ、eバイクなど「北斗星広場」を活用した企画の提案も受けている。  最後に商工会との関わりについて聞いたところ「基本的に企画から運営まですべて自分たちの力でやる。ただ、商工会・商工会青年部という組織だからできたことがたくさんあった。」これからも組織の強みを活かした事業を行っていくと佐々木代表は強く語った。

北斗星広場「ゲストハウス北斗星スクエア」
トレーラーハウスを活用した客室
北斗星宿泊施設

■補助事業活用と事業実施のポイント

宿泊業のノウハウや観光のマーケットの知識が無い中、ポストコロナの消費者ニーズに対応し、軌道に乗せるための新規の補助金で採択例がなかった事業再構築補助金の申請を作成するのがとても苦労した。

開業にあたり、函館市内のホテル支配人から、価格相場、宿泊予約の方法、リネン等のサービスの具体的なアドバイスを受けた。また、「北斗星のロケーション」、「豊かな自然の中での不便さ」を売りに、サービス面は最小限に留めた。

専門家による支〜専門家派遣等事業の活用〜

新たなビジネスモデル実施に伴い、道商工連の「専門家派遣等事業」を活用し、インテリアスタイリストよりトレーラーハウスのインテリアデザインや内装全般について指導、助言を受けた。

■構築後に期待できる効果

寝台特急北斗星は日本中の鉄道ファンにとって魅力的な存在で、その車両に宿泊できるとなれば多くの集客が期待できるため、人が集まり宿泊する事で地域の経済発展に寄与できる。

継続して利用できる宿泊や場の提供があれば、クリーニング、飲食、管理、メンテナンスなどに関わる雇用が発生するため、地域の方々を積極的に雇用し、住み続けられるまちづくりに寄与できる。

今後、「ゲストハウス北斗星スクエア」にバーベキューサイト、キャンプサイトを設置し、地元商工会青年部との連携によるサウナ事業等、鉄道を軸とした複合施設として拡充することで、幅広い客層獲得が可能となる。また、日本海側の観光ルートの拠点として他の交通機関や宿泊施設と連携したツアーも計画中であり、更なる成長に期待が高まる。

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